エネルギー分散X線マイクロアナライザ

目に見えないミクロ領域の観察と成分の調査です

この地球上の物質は、気体も液体も固体も、また生物でも金属でもすべて、元素の組合せで構成されています。地球上に存在する元素は、人造の超ウラン元素(原子番号93番以上の元素)を除くと92元素。この元素同士が結合した分子、そして数種類の分子が混ざり合った混合物が、この世に存在する数限りない物質になっているわけです。従って、得体の知れぬ物質が有ったならば、“どんな元素で構成されているのかを調べてみる”これが未知なる物質の素性を解き明かす、大きな手掛かりになるのです。本装置は、ミリからミクロの微小領域を元素分析するための、異物分析や障害解析には欠かせない分析装置です。なお、有機物に関しては同じ構成元素でも多様な組み合わせの分子構造で、無数の種類があることはご存じのとおりです。有機物の成分調査には、更に赤外分光分析や質量分析などによる構造解析が有効です。

走査電子顕微鏡

電子ビーム入射による各種信号

試料室内・試料微動ステージ(中央が試料台)

エネルギ分散Ⅹ線マイクロアナライザの原理
真空中で試料に電子ビームをあてると、いろいろな信号が発生します。試料に入射した電子が試料中の原子と衝突し、各種電磁波を励起するためです。このうち、特性X線が元素を知るためのターゲットになります。特性X線の持つエネルギーは元素によって固有です。従って、特性X線のエネルギー(keV)を精確に計測することで、そこに存在する元素が特定できるのです。

エネルギ分散Ⅹ線マイクロアナライザの特徴
本装置の本体は走査電子顕微鏡(SEM)です。走査電子顕微鏡で観察しながら対象物を探し、あるいは障害要因を見極めたうえで任意の箇所を元素分析します。観察倍率は15倍~数万倍、走査電子顕微鏡写真の撮影も可能です。分析領域は数ミリ~数ミクロンの範囲で自由に設定できます。元素検索の領域は原子番号5番のB(ホウ素)から92番のU(ウラン)までで、検出下限は0.1wt%前後、定量値も得られます。なお、条件によって異なりますが、1ミクロン前後の分析深度を有します。

電子銃内部・上蓋内中央がフィラメント

付加価値の高いデータを提供
本装置は元素の組成を分析するだけでなく、任意の元素について分布図を表示することができます。カラーマップを用いれば、複数の元素の色別けや濃度に応じた色分けにより、更に精密なプロファイルが可能です。

日立ハイテクノロジーズ SU3500N

食品混入物

本件は、菓子食品メーカーに寄せられたクレームで、飴の中に混入していた金属異物を分析したものです。元素分析の結果、Ag(銀)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)、Au(金)といった、貴金属元素を含む合金材料であることがわかりました。その特徴的な元素組成および異物の形状から、歯の治療に用いられた歯科用合金材料と判断されます。従って、この混入物は、食べていた人自身の治療歯から脱落したものと推測されます。

異物の光学顕微鏡写真

異物の元素分析データ

金属の腐食

本件は、SKH(高速度工具鋼鋼材)のドリル歯に発見された錆を調査したものです。錆を元素分析した結果、材質成分の他にO(酸素)及びCl(塩素)の検出が顕著に認められました。錆の主要成分は酸化鉄及び塩化鉄と推定され、ドリル歯は塩素化合物の汚染によって腐食したものと判断されます。カラーマッピング機能を用いて腐食部分におけるOとCl の分布状態を確認すると、錆と各元素との相関がよく判ります。

腐食部の光学顕微鏡写真

錆の元素分析データ

腐食部のカラーマッピングデータ

電気接点障害

接点の置かれた雰囲気がシリコーン(有機珪素化合物)のガス(低分子シロキサン)で汚染されていると、接点の開閉に伴って、SiO2等の無機珪素化合物が接点間に生成され、導通障害を起こすことが知られています。シリコーン障害と呼ばれ、モータの整流子等に発生するケースが認められます。本件は、起動不良を生じたモータの整流ブラシを調査したものです。ブラシの接点部には異物の付着が観察され、元素分析の結果、材質のAg(銀)の他にSi(珪素)及びO(酸素)が顕著に検出されました。まさに、シリコーン障害の典型的なものでした。ブラシ表面におけるSi のマッピングデータをとると、接点部を中心とするSi の付着状況が明確になりました。

接点部付着物の元素分析データ

ブラシ表面のカラーマッピングデータ